厚生労働科学研究情報

厚生労働科学研究費補助金 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(所属施設役職は当時のもの)

主任研究者一覧

スギ花粉・ダニ由来のアレルゲンの分析と診断・治療への応用に関する研究

主任研究者
安枝 浩 (独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター 室長)
分担研究者
阪口 雅弘  ((独)理化学研究所免疫アレルギー総合科学研究センター チームリーダー)
小埜 和久  (広島大学大学院先端物質科学研究科教授)
高井 敏朗  (順天堂大学医学部アトピー疾患研究センター 講師)
斎藤 三郎  (東京慈恵会医科大学DNA医学研究所助教授)
辻本 元   (東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
三田 晴久  ((独)国立病院機構相模原病院臨床研究センター 室長)

研究要旨

わが国のアレルギー疾患における最大の原因アレルゲンは室外のスギ花粉と室内のダニである。本研究班は,これらのスギ花粉,およびダニのアレルゲンの分子レベルにおける構造や機能の解析を基にした新たな診断薬や治療薬の開発,ならびにスギ花粉症,ダニアレルギーの根治的治療を目標とした新規抗原特異的治療法の確立を目的として組織された。平成17年度には以下の研究成果が得られた。

アレルゲンの解析に関しては,スギ花粉から2種類の新規アレルゲンをクローニングし,その活性型組換体を調製した。ダニグループ1アレルゲンDer f 1/Der p 1の組換型は天然型と同等の構造およびアレルゲン活性を保持しているだけではなく,プロテアーゼ活性に依存した細胞刺激活性やIgE/Th2誘導活性を保持していることを明らかにした。特定のモノクローナル抗体との反応性を欠失したスギ花粉主要アレルゲンCry j 1のアイソフォームの存在は,現行のスギ花粉アレルゲン標準化に影響を及ぼす可能性がある。その可能性を排除するために,アイソフォームの存在割合によって影響を受けない力価設定用ELISAを構築した。Cry j 1に対するIgE抗体の親和性は花粉飛散量に依存した年次変動を繰り返すが,減感作治療はそのような花粉曝露にともなう親和性亢進を抑制することを見いだした。スギ花粉症,ダニアレルギーの新たな抗原特異的治療薬として,スギ花粉アレルゲン遺伝子組換乳酸菌,スギ花粉アレルゲン発現組換米による「食べるワクチン」,ダニアレルゲンDNAワクチンの開発を進めた。遺伝子組換乳酸菌では,Cry j 1の全長の約半分の断片とListeriolysin O (LLO)の融合蛋白として発現する組換乳酸菌の作製に成功した。「食べるワクチン」では,経口摂取6ヶ月後でも経口トレランスは維持されていることがマウスにおいて確認され,ダニアレルゲンDNAワクチンでは, Der f 2,および新規アレルゲンZ1のDNAワクチンはイヌに対する投与試験で安全性,実験的感作に対する有効性が確認された。

A.研究目的

わが国のアレルギー疾患における最大の原因アレルゲンは室外のスギ花粉と室内のヒョウヒダニ(以下ダニ)である。スギ花粉症はわが国の国民病ともいわれている疾患で,最近の調査では全人口のおよそ20 % が罹患している。一方,ダニについては,小児気管支喘息の原因アレルゲンの80−90 %はダニであり,成人のアトピー型気管支喘息においても大半の患者はダニに感作されている。しかもスギ花粉症や小児気管支喘息などのアレルギー疾患は,近年増加の一途をたどっており,スギ花粉,ダニを原因とするアレルギー疾患の新規治療法を確立することは社会的急務でもある。

本研究においては,これらの疾患発症の直接の原因となるスギ花粉,ダニのアレルゲンを同定,天然型アレルゲンの精製や組換型アレルゲンの作製を行い,それらのアレルゲンの構造や機能を分子レベルで解析して,得られた成果をアレルゲンエキスの品質改善,標準化,新たな診断薬,治療薬の開発に応用する。さらに,本研究では,スギ花粉症,ダニアレルギーの根治的治療を目標とした新たなアレルゲン特異的免疫療法の開発,および免疫療法の有効性を客観的に評価できる指標の開発を行い,それらの臨床応用を目指す。

B.研究方法

  1. アレルゲンの同定,解析に関する研究(小埜・高井・安枝)

    スギ花粉,ダニの抽出物を二次元電気泳動で展開し,患者血清を用いたイムノブロットで各スポットのIgE抗体反応性を検出,比較した。陽性頻度の高いスポットはその一次配列をTOF-MSで同定,その情報をもとにcDNAをクローニングした。組換体をバキュロウイルス-昆虫細胞分泌発現系により作製し,そのIgE結合活性および酵素活性を評価した。

    プロテアーゼ活性を保持した組換型のダニ主要アレルゲンDer f 1, Der p 1を一昨年度に確立した方法で調製し,そのプロテアーゼ活性によるヒトタンパク質 (CD23, CD25, α1-antitrypsin) 切断,ヒトケラチノサイト活性化,およびマウスにおけるIgE誘導能を調べた。

    スギ花粉主要アレルゲンCry j 1に対するモノクローナル抗体 (mAb) を新たに36種類作製し,スギ精英樹(スギ造林事業における種苗生産のために育成,継代されている品種)花粉抽出液中Cry j 1の各mAbに対する反応性を調べることにより新たなアイソフォームを探索した。精英樹花粉からアイソフォーム標品を単離し,IgE抗体との反応性を一般型Cry j 1と比較した。力価測定用のsandwich ELISAは,さまざまなmAb同士を組み合わせた系について,各種スギ花粉抽出液との反応性の検討を行い,その中から力価測定用として適切なものを選択した。

  2. アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定(三田)

    同意が得られたスギ花粉症患者から3年間にわたり(平成15,16,17年)スギ花粉の飛散期に末梢静脈血を採取し,血漿を用いて抗体値(total IgE,Cry j 1に対するIgE抗体,IgG抗体,IgG4抗体)とCry j 1に対するIgE抗体の親和性を測定し,さらに洗浄白血球を分離してCry j 1によるヒスタミン遊離試験を行った。平成17年度の時点での未治療患者,減感作5年未満,5年以上継続患者の3群に分けて各種パラメーターについての群間比較を行った。

  3. 治療法に関する研究(阪口・斎藤・辻本)

    Cry j 1 T細胞エピトープ・ペプチド(p227-290)を含むCry j 1蛋白(p158-329)の遺伝子とListeriolysin O (LLO)の溶血活性のあるDomain 4を除いたDomain 1-3遺伝子を発現ベクターであるpLPD4に組み込み,L. caseiにトランスフェクトし,スギ花粉アレルゲン遺伝子組換乳酸菌(Cry j 1 L. casei)を作製した。その蛋白発現を調べるために菌体を溶解後,抗LLO抗体を用いたウエスタンブロット法でLLO-Cry j 1の発現を調べた。また,Cry j 1のプライマーを使ってCry j 1のmRNAの存在も調べた。

    「食べるワクチン」による経口トレランス誘導能は,経口摂取させるペプチド発現米の量を調節して,その後の免疫応答性を検討した。経口トレランスの持続期間は,1ヶ月間経口摂取させ,6ヶ月後の免疫応答能を解析する系で調べた。7連結ペプチド(7 crp)に対するモノクローナル抗体を作製し,アフィニティカラムによりペプチド発現米からペプチドを精製できるか検討した。

    イヌのアトピー性皮膚炎(AD)におけるD. farinae(DF)の主要アレルゲンと考えられる約170kDaのアレルゲン(Z1)のクローニングを実施した。次いで,組換体Z1に対する抗体のカラムによって天然型Z1蛋白を単離し,ADに罹患したイヌの血清との反応性を検討した。Der f 2 cDNAおよびZ1 cDNAをプラスミド発現ベクターに組み込み,DNAワクチンを作製した。予定臨床投与量(0.5 mg/dog)およびその3倍量を実験用ビーグル犬に投与してその安全性を評価した。また,DNAワクチン投与後にDer f 2による実験的感作を行いその有効性を検討した。

C.研究結果

  1. アレルゲンの同定,解析に関する研究

    イムノブロットで高いIgE抗体反応頻度を示した2種類の新規スギ花粉アレルゲン(CPA39, CPA63)は,それぞれβ-1,3-glucanaseおよびaspartyl protease/nucleoid DNA binding proteinであると同定された。バキュロウイルス-昆虫細胞による分泌発現・精製系で得られた組換型CPA39, CPA63は共にIgE結合活性を示し,CPA39はβ-1,3-glucanase活性も有していた。

    組換型Der f 1, Der p 1はヒトCD23, CD25およびα1-antitrypsinを切断した。免疫マウスにおいては組換型Der f 1, Der p 1は天然型と同等のIgEを誘導した。また,組換型Der f 1, Der p 1刺激によりヒトケラチノサイト培養上清中のIL-8が上昇し,システインプロテアーゼインヒビターの添加によりこれは抑制された。

    今回調べた58種類のスギ精英樹からは新規のCry j 1アイソフォームをホモで保有している個体は見いだせなかった。これまでに同定した2種類のCry j 1アイソフォームはヒトIgE抗体との反応性には一般型と差が見られなかった。一次抗体にJ1B07と新規のJ1B47を等量ブレンドしたもの,二次抗体にJ1B01という組み合わせのELISAがアイソフォームの影響を受けにくく,スギ花粉標準化における力価測定用ELISAとして最適であった。

  2. アレルゲンに対するIgE抗体の親和性測定

    Cry j 1に対するIgE抗体の親和性は,花粉の飛散量に依存するKD値の増減が観察されたが,花粉曝露にともなう親和性の亢進は5年以上の減感作群ではみられなくなった。同一血清(n=11)で比較した場合,IgG4抗体の親和性(KD: 677 pM)はIgE抗体の親和性(13.5 pM)と比べて有意に弱かった。

  3. 治療法に関する研究

    スギ花粉アレルゲン遺伝子組換え乳酸菌において,LLO-Cry j1が発現していることが抗LLO抗体を用いたウエスタンブロット法で確認され,その分子量は組み込んだLLOとCry j 1の分子量を加えたものに一致していた。また,Cry j 1のmRNAが発現していることも確認された。

    経口トレランスの誘導に必要な量は,7 crpに換算すると,1日当たり100マイクログラム以上であった。経口トレランスは,経口摂取6ヵ月後でも減弱してはいるが維持されていることが観察された。アフィニティカラムを用いると,ペプチド発現米の抽出液からペプチドを精製できることが確認できた。

    ADに罹患したイヌの血中には天然型Z1に対するIgE抗体が検出され,Z1がイヌにおける新規ダニアレルゲンであることが証明された。また,ADのイヌの70 %にDer f 2とZ1の両方,または一方に対するIgE抗体が検出された。Der f 2 DNAワクチン,Z1 DNAワクチンを予定臨床投与量の3倍量投与してもイヌに異常は認められなかった。Der f 2 DNAワクチン投与後に実験的感作をした群では,ワクチン非投与後に感作した群に比べてDer f 2特異的IgE抗体の上昇が抑えられていた。

D.考察

新規のスギ花粉アレルゲンとしてβ-1,3-glucanase ホモログであるCPA39,aspartyl protease様分子であるCPA63を同定した。二次元電気泳動マップで高いIgE反応頻度を示すこれら以外の新規アレルゲンのcDNAクローニングも完了しつつあり,主要なスギ花粉アレルゲノームの全貌を明らかにすることができた。

組換型Der f 1, Der p 1は天然型と同等の構造およびIgE結合能/アレルゲン活性を保持しており,診断や治療における標準化抗原として有用である。さらに,プロテアーゼ活性に依存した細胞刺激活性やIgE/Th2誘導活性を保持しているので,機能と疾患の関連における作用点の解析研究においても有用である。今後はそれらの作用点を標的とした改変アレルゲンによる治療法の開発へと展開していく必要がある。

スギ精英樹から新たなCry j 1アイソフォームを探索したが,自然界に高い割合で存在する第3のアイソフォームは見いだされなかった。これまでに同定した2種類のアイソフォームはIgE抗体との反応性に一般型と差はなく,花粉症の症状そのものには影響しない。しかし,アイソフォームの存在は現行の標準化には影響を及ぼす。この問題を解決すべく新たな力価測定用ELISAの系を組み立てた。

Cry j 1に対するIgE抗体の親和性は花粉飛散期にその飛散量に依存して親和性が増大するという変動を繰り返した。しかし,減感作長期間継続例ではそのような花粉曝露にともなう親和性亢進は見られなくなっていた。すなわち,IgE抗体の親和性は減感作治療の新しいパラメーターとなる可能性が示唆された。

乳酸菌の強いTh1誘導作用を利用したアレルゲン組換乳酸菌ワクチンは,製造コストも低く,経口投与で行うことのできる安全性の高い治療用ワクチンとなりうる。本研究においてLLO-Cry j1の発現が確認された。今後はIgE抗体抑制能など本ワクチンの有効性についての動物モデルでの評価が必要である。

スギ花粉アレルゲンのペプチド発現米の経口摂取により,予防的にも治療的にも経口トレランスが誘導され,食べるワクチンは花粉症に対し有効な免疫療法となることが示唆された。経口トレランスの有効量,持続期間,あるいはそのメカニズムの詳細については今後更に解析する必要がる。

本研究で開発した2種類のダニDNAワクチンは,その安全性試験において問題のないことが確認され,ワクチンの予防的投与によってIgE抗体の産生を抑制することが示された。ダニに感作されADを罹患したイヌを対象にした臨床的評価が今後の課題である。

E.結論

スギ花粉・ダニ由来のアレルゲンの分析と,その診断・治療への応用に関して多くの成果が得られた。これらの成果をスギ花粉症,ダニアレルギーに対する特異的治療法の実用化に向けて展開していくことが今後の課題である。

F.健康危険情報

特になし

G.研究発表

  1. 論文発表
    1. Kato T, Takai T, Mitsuishi K, Okumura K, Ogawa H. Cystatin A inhibits IL-8 production by keratinocytes stimulated with Der p 1 and Der f 1: Biochemical skinbarrier against mite proteases. J Allergy Clin Immunol 2005; 116: 169-176.
    2. Nakazawa T, Takai T, Hatanaka H, Mizuuchi E, Nagamune T, Okumura K, Ogawa H. Multiple-mutation at a potential ligand-binding region decreased allergenicity of a mite allergen Der f 2 without disrupting global structure. FEBS Lett 2005; 579: 1988-1994.
    3. Takai T, Kato T, Ota M, Yasueda H, Kuhara T, Okumura K, Ogawa H. Recombinant Der p 1 and Der f 1 with in vitro enzymatic activity to cleave human CD23, CD25, and ・1-antitrypsin, and in vivo IgE-eliciting activity in mice . Int Arch Allergy Immunol 2005; 137: 194-200.
    4. Takai T, Takaoka M, Yasueda H, Okumura K, Ogawa H. Dilution-method to refold bacterially expressed recombinant Der f 2 and Der p 2 to exhibit the secondary structure and histamine-releasing activity of natural allergens. Int Arch Allergy Immunol 2005; 137: 1-8.
    5. Takai T, Mizuuchi E, Kikuchi Y, Nagamune T, Okumura K, Ogawa H. Glycosylation of recombinant proforms of major mite allergens Der p 1 and Der f 1 decelerates the speed of maturation. Int Arch Allergy Immunol 2006; 139: 181-187.
    6. Ichikawa S, Takai T, Inoue T, Yuuki T, Okumura Y, Ogura K, Inagaki F, Hatanaka H. NMR study on the major mite allergen Der f 2: Its refined tertiary structure, epitopes for monoclonal antibodies and characteristics shared by ML protein group members. J Biochem 2005; 137:255-263.
    7. Ohmori K, Sakaguchi M, Kaburagi Y, Maeda S, Masuda K, Ohno A, Tsujimoto H. A descriptive study of 85 dogs with suspected allergic reactions after vaccination in Japan. Vet Rec 2005; 156: 87-88.
    8. Miyazawa H, Sakaguchi M, Yasueda H, Saito S, Tanaka K, Nagata K, Inouye S. Non-IgE,-IgG4 antibody to Japanese cedar pollen allergens: Comparison of its prevalence and titers between pollinosis patients and non-patients. Allergol Int 2005; 54: 159-166.
    9. Ohmori K, Sakaguchi M, Maeda S, Masuda K, Ohno K, Kaburagi Y, Kurata K, DeBoer DJ, Tsujimoto H. IgE reactivity to vaccine components in dogs that developed immediate-type allergic after vaccination. Vet Immunol Immunopathol 2005; 104: 249-256.
    10. Murasugi T, Nakagami Y, Yoshitomi T, Hirahara K, Yamashita M, Taniguchi Y, Sakaguchi M, Ito K. Oral administration of a T cell epitope inhibits symptoms and reactions of allergic rhinitis in Japanese cedar pollen allergen-sensitized mice. Eur J Pharmacol 2005; 510, 143-148.
    11. Olsen D, Jiang J, Chang R, Duffy R, Sakaguchi M, Leigh S, Lundgard R, Ju J, Buschman F, Truong-Le V, Plarek J. Expression and characterization of a low molecular weight recombinant human gelatin. Protein Expr Purif 2005; 40: 346-357.
    12. Futamura N, Tani N, Tsumura Y, Mukai Y, Nakajima N, Sakaguchi M, Shinohara K. Characterization of genes for novel thaumatin-like proteins in Cryptomeria japonica. Tree Physiol 2006; 26: 51-62.
    13. Takagi H, Saito S, Yang L et al. Oral immunotherapy against a pollen allergy using a seed-based peptide vaccine. Plant Biotechnol J 2005; 3: 521-533.
    14. Maeda S, Tsukui T, Saze K, Masuda K, Ohno K, Tsujimoto H, Iwabuchi S. Production of a monoclonal antibody to canine thymus and activation-regulated chemokine (TARC) and detection of TARC in lesional skin from dogs with atopic dermatitis. Vet Immunol Immunopathol 2005; 103: 83-92.
    15. Yasuda N, Tsukui T, Masuda K, Kawarai S, Ohmori K, Maeda S, Tsujimoto H. Cloning of cDNA encoding canine endothelin receptors and their expression in normal tissues. J Vet Med Sci 2005; 67: 1075-1079.
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